「さて、じゃあ源次郎、俺も……」
「ああ、すまんな。紫苑の事……頼んだ」
 久しぶりに見た藍の真剣な顔は、文字通り銘刀の刀身のように研ぎ澄まされていた。
「頼まれた。十八代天瑠璃の事は任せろ。……二度とあんなヘマはしない。守護者として誓う」
 そう言うと優男は表情を崩し、笑いながら源次郎にウィンクした。
「行ってきますよっと!」
 藍も、躊躇なく紫苑が消えた、開かれた本のページに飛び込む。
 金色(こんじき)の輝きを放つ本の内側へと。
 そして本は静かに閉じられた。

 源次郎はベッドから降りて、ぽとりと床に落ちた本を大事そうに拾う。
「見ておいで。選ばれた者しか見ることのできない“物語の続き”を」
 頼んだぞ、藍。
 頼んだぞ、可愛い孫娘。
 頼む、お前の父を――救っておくれ。

 ふと見上げた二階の窓の外は、灰色の雲が全ての空という空を支配していた。
「青空か……」
 由緒ある天瑠璃家の現当主は、今も昔も青色の空が好きだった。