「エルヴィンさん!!」
「任せろ!」
ルナが魔物を鎮静化させ、エルヴィンが剣で魔物を斬り伏せる。
お互いの役割分担を設け、ルナはなるべく安全な場所で、というのがエルヴィンの提案だった。
実際にやってみると、効率が良い。
(前回も思ったけど、エルヴィンさんの聖魔法と相性が良いみたい)
テネによれば、エルヴィンの聖魔法がルナの魔女の力を底上げしているらしい。
そのテネは見つからない場所でルナを見守ってくれている。
「ルナ嬢」
魔物を鎮圧したエルヴィンの呼びかけにルナは返事をして近付く。
ここにも黒い渦が禍々しく立ち昇っている。
渦にそっと近寄ると、エルヴィンがルナの肩に触れる。
「?!」
思わずエルヴィンを振り返れば、彼はきょとんとした顔で言った。
「何だ、俺の聖魔法の補助が必要なのだろう?」
「そう、です」
エルヴィンの正論に返事をすると、ルナは渦に向き直る。
(そうだけど、急に触られたらドキッとするじゃない! もう、顔、赤くなってないかな?)
ドキドキする胸をおさえつけるようにルナは深呼吸をする。
(聖魔法の力よ、月の光よ、力を貸して――)
ルナの身体から光が溢れる。そして、肩からエルヴィンの聖魔法の力が流れ込んで来るのがわかる。
光が渦を包むと、闇の力がルナの身に入り込み、渦は眩い光と共にパァン、と消滅した。
「うっ……」
がくりとルナは体制を崩したが、すぐ後ろにいたエルヴィンに支えられる。
「大丈夫か?」
「だいじょ、ぶ、ですよ」
エルヴィンの問にルナは力無くも笑って見せる。
そんなルナをエルヴィンは軽々と横抱きで持ち上げた。
「エルヴィンさん?」
「前回も思ったけど、君は、どうしてこんなに消耗するんだ? 大丈夫なのか?」
見上げた夕日色の瞳が真剣に心配してくれている。
「聖魔法を使うと疲れるんですよ……。エルヴィンさんは大丈夫なんですか?」
「俺は鍛えてるから」
「さすが……」
エルヴィンの答えにルナはふふ、と笑ってみせた。
闇の力をその身に受けているなんて説明もしようがない。エルヴィンに見えていないのが幸いだ。傍目からはあの黒い渦を消滅させただけに見える。
(土地の鎮静に先回りしようとしても結局魔物が生まれ出てしまっている。それだけこの国の闇がどうしようもなくなってきてるんだ……)
「ルナ殿?」
考え込むルナにエルヴィンが心配そうに覗き込む。
「私も鍛えた方が良いですかねえ?」
ははは、と冗談めいて笑って見せたが、エルヴィンの表情は崩れない。
「もう充分だ。俺が君を守るから、鍛えなくて良い。だから無理はしないでくれ」
真面目にそう言うエルヴィンが眩しい。ルナは目を瞑り、静かに言った。
「無理はしてないですよ。それに、あの渦を放ってはおけないでしょう? 私は休めば治りますから」
「本当だな?」
「本当です」
念を押すエルヴィンにルナは笑って答える。
「そういうエルヴィンさんこそ、無茶はしないでくださいよ?」
「む……、俺は騎士だ。約束は出来ない」
人差し指を立ててエルヴィンに突きつければ、彼は当たり前のように言った。
「エルヴィンさーん?」
「……善処しよう……」
ルナが不服そうに言えば、エルヴィンは少しだけ逡巡して頷いた。
「俺たちは戦友だ。お互い無茶しないように見張っていよう」
「戦友……」
聞き慣れない単語にルナの瞳が揺れる。そんなルナにエルヴィンは眉尻を下げて言った。
「嫌か?」
「ううん! 嬉しい!」
「そうか」
ルナが慌てて否定すれば、エルヴィンは穏やかに笑った。
(その笑顔、好き……)
「ルナ殿?」
ルナがエルヴィンに見惚れていると、彼の瞳がこちらを向いて、心臓が飛び跳ねる。
(す、好きって、何?!)
ルナは首をぶんぶん振って自らに言い聞かせる。
(今まで一人で戦ってたから、仲間が出来て嬉しいだけだし!)
「ルナ殿?」
一人で百面相をしていたルナをエルヴィンが心配そうに見ていた。
「あ! の! 戦友なら、ルナで良いですよ! ルナ殿なんて堅苦しいし!」
心内をエルヴィンに悟られないようにと、ルナは話題を絞りだす。
「そうか、それもそうだな」
「まあ、エルヴィンさんはあんまり名前呼んでくれないですよね! 君、ってばっかりで」
「そ、そうか?」
「そうですよ!」
拗ねるように言ってしまった。
(これじゃまるで名前で呼んで欲しいみたいじゃない?!)
エルヴィンに未だ抱えられているので、余計に恥ずかしくなる。
「……ルナ」
恥ずかしさで顔を覆っていると、自分の名前を呼ぶ声が降ってきた。
ばっと顔を上げれば、夕日色の瞳は背けられていた。エルヴィンの耳が赤い。
「これからもよろしく頼む……ルナ」
もう一度名前を呼ばれ、ルナの胸が跳ねる。
「こちらこそ! よろしくね、エルヴィンさん!」
くすぐったいような、嬉しいような、初めての感覚に戸惑いながらも、ルナは満面の笑みで答えた。
エルヴィンに更に近づけたのが嬉しい。
それが初めて共闘する仲間が出来たからなのか、それとも別の理由なのかはまだルナにはわからなかった。
ただエルヴィンに名前を呼ばれたのが嬉しくて、ルナは何度も心の中で反芻した。
「任せろ!」
ルナが魔物を鎮静化させ、エルヴィンが剣で魔物を斬り伏せる。
お互いの役割分担を設け、ルナはなるべく安全な場所で、というのがエルヴィンの提案だった。
実際にやってみると、効率が良い。
(前回も思ったけど、エルヴィンさんの聖魔法と相性が良いみたい)
テネによれば、エルヴィンの聖魔法がルナの魔女の力を底上げしているらしい。
そのテネは見つからない場所でルナを見守ってくれている。
「ルナ嬢」
魔物を鎮圧したエルヴィンの呼びかけにルナは返事をして近付く。
ここにも黒い渦が禍々しく立ち昇っている。
渦にそっと近寄ると、エルヴィンがルナの肩に触れる。
「?!」
思わずエルヴィンを振り返れば、彼はきょとんとした顔で言った。
「何だ、俺の聖魔法の補助が必要なのだろう?」
「そう、です」
エルヴィンの正論に返事をすると、ルナは渦に向き直る。
(そうだけど、急に触られたらドキッとするじゃない! もう、顔、赤くなってないかな?)
ドキドキする胸をおさえつけるようにルナは深呼吸をする。
(聖魔法の力よ、月の光よ、力を貸して――)
ルナの身体から光が溢れる。そして、肩からエルヴィンの聖魔法の力が流れ込んで来るのがわかる。
光が渦を包むと、闇の力がルナの身に入り込み、渦は眩い光と共にパァン、と消滅した。
「うっ……」
がくりとルナは体制を崩したが、すぐ後ろにいたエルヴィンに支えられる。
「大丈夫か?」
「だいじょ、ぶ、ですよ」
エルヴィンの問にルナは力無くも笑って見せる。
そんなルナをエルヴィンは軽々と横抱きで持ち上げた。
「エルヴィンさん?」
「前回も思ったけど、君は、どうしてこんなに消耗するんだ? 大丈夫なのか?」
見上げた夕日色の瞳が真剣に心配してくれている。
「聖魔法を使うと疲れるんですよ……。エルヴィンさんは大丈夫なんですか?」
「俺は鍛えてるから」
「さすが……」
エルヴィンの答えにルナはふふ、と笑ってみせた。
闇の力をその身に受けているなんて説明もしようがない。エルヴィンに見えていないのが幸いだ。傍目からはあの黒い渦を消滅させただけに見える。
(土地の鎮静に先回りしようとしても結局魔物が生まれ出てしまっている。それだけこの国の闇がどうしようもなくなってきてるんだ……)
「ルナ殿?」
考え込むルナにエルヴィンが心配そうに覗き込む。
「私も鍛えた方が良いですかねえ?」
ははは、と冗談めいて笑って見せたが、エルヴィンの表情は崩れない。
「もう充分だ。俺が君を守るから、鍛えなくて良い。だから無理はしないでくれ」
真面目にそう言うエルヴィンが眩しい。ルナは目を瞑り、静かに言った。
「無理はしてないですよ。それに、あの渦を放ってはおけないでしょう? 私は休めば治りますから」
「本当だな?」
「本当です」
念を押すエルヴィンにルナは笑って答える。
「そういうエルヴィンさんこそ、無茶はしないでくださいよ?」
「む……、俺は騎士だ。約束は出来ない」
人差し指を立ててエルヴィンに突きつければ、彼は当たり前のように言った。
「エルヴィンさーん?」
「……善処しよう……」
ルナが不服そうに言えば、エルヴィンは少しだけ逡巡して頷いた。
「俺たちは戦友だ。お互い無茶しないように見張っていよう」
「戦友……」
聞き慣れない単語にルナの瞳が揺れる。そんなルナにエルヴィンは眉尻を下げて言った。
「嫌か?」
「ううん! 嬉しい!」
「そうか」
ルナが慌てて否定すれば、エルヴィンは穏やかに笑った。
(その笑顔、好き……)
「ルナ殿?」
ルナがエルヴィンに見惚れていると、彼の瞳がこちらを向いて、心臓が飛び跳ねる。
(す、好きって、何?!)
ルナは首をぶんぶん振って自らに言い聞かせる。
(今まで一人で戦ってたから、仲間が出来て嬉しいだけだし!)
「ルナ殿?」
一人で百面相をしていたルナをエルヴィンが心配そうに見ていた。
「あ! の! 戦友なら、ルナで良いですよ! ルナ殿なんて堅苦しいし!」
心内をエルヴィンに悟られないようにと、ルナは話題を絞りだす。
「そうか、それもそうだな」
「まあ、エルヴィンさんはあんまり名前呼んでくれないですよね! 君、ってばっかりで」
「そ、そうか?」
「そうですよ!」
拗ねるように言ってしまった。
(これじゃまるで名前で呼んで欲しいみたいじゃない?!)
エルヴィンに未だ抱えられているので、余計に恥ずかしくなる。
「……ルナ」
恥ずかしさで顔を覆っていると、自分の名前を呼ぶ声が降ってきた。
ばっと顔を上げれば、夕日色の瞳は背けられていた。エルヴィンの耳が赤い。
「これからもよろしく頼む……ルナ」
もう一度名前を呼ばれ、ルナの胸が跳ねる。
「こちらこそ! よろしくね、エルヴィンさん!」
くすぐったいような、嬉しいような、初めての感覚に戸惑いながらも、ルナは満面の笑みで答えた。
エルヴィンに更に近づけたのが嬉しい。
それが初めて共闘する仲間が出来たからなのか、それとも別の理由なのかはまだルナにはわからなかった。
ただエルヴィンに名前を呼ばれたのが嬉しくて、ルナは何度も心の中で反芻した。