(アリス…っ!頼む、間に合ってくれ!)
クロードは全力で走った。
オーヴはたしかに『おまえの兄と』と言った。
それが、次兄ナルシスを指すのか三兄レイモンを指すのかわからないが、どちらの男もアリスに執着していたのは間違いない。
だとしたら…。
もし、彼らのうちの一人と、部屋に閉じ込められたのだとしたら…。

クロードは、ルイーズ王女の狙いがアリスの醜聞にあることを悟った。
王女はアリスをクロードから引き離すため、他の男との醜聞を利用しようとしているのだ。

(まさか、そこまでするなんて…!)
クロードは、あらためて自分の甘さを呪った。
愚かな自分のせいで、アリスが傷つけられるなど、あってはならないことだ。
(万が一アリスが傷つけられるようなことがあったら、その時は、たとえ王女でも…!)

全速力で走ってきたクロードは、ようやく旧後宮の棟に着いた。
しかしエントランスの扉は固く閉ざされ、近くに入れるような入口も無い。
これは別の棟に回り込んでから入るしかなさそうだが、それらは騎士たちがそれぞれの入口を厳重に守っているため、すぐには通してもらえないだろう。
いくら王女の護衛騎士を名乗ったとしても、騎士にはそれぞれ管轄があるのだから。
 
クロードは棟の裏手に回ってみた。
現在使用されていない後宮は警備も手薄で周囲には騎士の姿も見えないため、窓でもあれば破って侵入しようと思ったのだ。