「私は当たり前のことをしただけです、お礼なんて望んでいません。それより、あなたは本当に……牢屋にいた、あの人なんですよね……?」
「ン?」
「あの時とは、その……あまりにも《《感じ》》がちがうので。ぁ……あなたが、とても高貴なお方だというのはわかるのですが」
マリアは青年の漆黒の礼服に目を移す。
光沢のある上質そうな生地。所どころ銀糸で繊細な刺繍が施されたそれは、間違いなく上級の貴族が身にまとうのに相応しい代物だ。
「あれは酷かったからね。髪を切ったし髭も剃ってしまったが、あの時君が救ってくれた囚人、ジルベルトだ」
「ジル、ベルト……」
「にゃー!」
マリアの膝の上で仔猫が返事をし、二人の視線をさらう。《《人間の》》ジルベルトがふっと頬を緩めた。
「猫の名前は? なんていうの」
「えっ………と、それは……っっ」
マリアは戸惑った。
まさか、本物のジルベルトに再会できるなんて想像もしていなかったのだ。安易に彼の名を仔猫に付けてしまったことが今になって悔やまれる。
——この子をジルベルトって呼んでるなんて、恥ずかしくて言えないっ!

