そしてジルベルトは、まだマリアに自分の正体を明かしていない。
——やはり皇太子だと告げるのはまだだ。
マリアに恐怖心を抱かせるわけにはいかない。
——ただでさえ俺は兄殺しの『冷酷皇太子』だと世に知れ渡っているのだから。
皇太子だと明かせばマリアを怖がらせる——そう思う最上の理由はそこにあった。
「……マリア」
組んだ膝の上に片肘をつき、向かい側のマリアを見つめていたジルベルトがようやく口火を切る。
やっと探しあてた天使は、汚れた作業着を身につけ、簡単にまとめただけの濡れ髪は乱れきっている。
もともと華奢だった青白い手首は骨張り、牢の中で見た時よりも痩せていて身体は鶏がらのようだ。
——ろくに食事も与えられず、よほど酷い扱いをされていたのだな……。
その不憫さを思えば、もっと早く迎えに来てやりたかったと心が軋む。

