苦虫を噛み潰したような表情をしても、店主は青年の威圧に返す言葉が見当たらない。
ジルベルトが扉の向こう側へと去ろうとしたとき、ようやく口を開いた。
「ぎょ、仰々しく護衛なんか付けやがって、偉っそうに! お前……一体誰なんだ?! マリアなんかを引き取ろうなんざぁ、どうせ気まぐれなその辺の田舎貴族かなんかだろ!?」
店主の負け惜しみを背中で受け止め、ジルベルトは肩越しに振り返った。
「貴様ごときが俺の名を知る資格はない」
そしてジルベルトに外套を着せようとする大男につぶやく。店主がまだ後ろで何か言っているが、もう気に留めようとはしない。
「俺は馬車の中で待つ。マリアの支度が済んだらすぐに連れてきてくれ」
「あの無礼な男の処罰は?」
「放っておけ」
「良いのですか?!」
「ああ。帝国の皇太子が介入するような事じゃない」
ジルベルトは雨の中を平然と馬車に乗り込む。
外套を被った大男は、返事をする代わりに最上級の敬礼をした。

