三人の幼子の母となり、置かれた立場や状況が大きく変わっても。
 果てしなく時が経っても、ジルが知るマリアの綺麗な虹彩は変わらず優しい光と言葉を投げかけてくれる。

 きっと、ずっと、いつまでも。


 ——皇子たちがボクを拒絶したら……?
 猫なんか家族じゃないって言われたら……?


 ジルが心配を寄せて見上げてみても、子供たちは屈託のない笑顔を向けてくるばかり。
 おまけにアルハイゼンとエルヴィンが競うように頭の毛をぐしゃぐしゃと撫でてくる。
 異論を唱える者など、はじめから一人もいないのだった。


 人間と猫の隔たりはない。
 『家族』はとても大切で、かけがえのないものだと教えられた。


「みゃぁぁ……」
 

 ——マリア。
 あの時はよくわからなかったけれど。
 ボク、思い出したよ。
 この『鍵』をもらったときも、言ってくれたんだ。


 ぴかぴかの鍵の付いたリボンを猫の首に巻きながら。
 花のように可憐な笑顔をジルの鼻先に寄せて、まるで恋人でも見るように熱く潤んだ瞳で。


『あなたにはこれを身に付ける権利がある。ジルは私の家族だから。』


 午後の太陽が明るい日の光をもたらしている。
 そこにはもう、小さな猫の心に雨を降らせる灰色の雲など微塵も見当たらない。

 アルハイゼン皇子に促されて、ジルはすやすや眠るフロレンティーナの薔薇色の頬にそっとキスを落とした。


 ——ボクの可愛い妹。
 キミがもう少し大きくなったら、いっぱい遊ぼうね——。





《コミカライズお礼SS・完》