マリアと同じく、ジルベルトも公爵家訪問の緊張から解き放たれていた。
 安堵の気持ちとともに脳裏に浮かぶのは、予想を覆すガルヴァリエ公爵の発言の数々——

 ——応接室の緊迫した空気を破り、案じていた関係悪化の事態をも公爵は大声で笑い飛ばしたのだった。


『ハッ……! その表情(かお)を見ればわかる。
 さては私が激昂するとでも思っておられたのだな?!

 当たらずとも遠からず。一方的な婚約破棄となれば皇室は公爵家の後ろ盾を失うところだ。
 だが我々身内のみぞ知る事実がある。

 二度目の婚約についてフェルナンド子爵からの申し出を敢えて受けたのは、ミラルダの懇願を聞き入れたまで。そうでなければあの小賢しい子爵の書簡など突き返してやるところだ。
 娘は私を強く説得した——これは次代の皇妃への試練なのだと。いつか必ず皇太子が妃殿下になるに相応(ふさわ)しい女性をこの屋敷に連れて来ると豪語してな。