ミラルダは一体、何が言いたいのだろう。
 
「それって、どういう……」
 聞き返そうとした時、そのタイミングで扉をノックする音が狭いアトリエに響いた——

「リュシエンヌ様、お迎えに参りました。皇太子殿下がお帰りになられるそうです。旦那様……いえ、公爵様にご挨拶をと仰っておりますよ」



 一人きりになったアトリエで、ミラルダはエプロンを付け、使い込んだ絵の具のパレットを左手の親指にはめた。

 ジルベルトに呼ばれたマリアは名残惜しそうにアトリエを出て行った。
 また早々に会いましょうと、固く約束を交わして。

「——やっと、塗れるわね」

 もうほとんど仕上がったキャンバスで、唯一、下地のままの部分がある。
 手早く数色の油絵具を混ぜ合わせ、退紅色《ストロベリーブロンド》を作った。

「綺麗な色……」
 ミラルダが微笑みを向けるその先には——。

 純白の婚礼衣装に身を包んだマリアとジルベルトが、大きなキャンバスの中で幸せそうに微笑んでいた。