「殿下、せっかく塞がった傷口が広がります」
「俺を救った者が城を追放されるなど……ッ、一体誰の指図だ! 国王か?」

「ロベルト宰相をはじめウェインの幹部たちは、今回の事件の火消しに躍起になってるんです。気の毒な彼らは殿下の失踪事件の被害者ですよ。それに、なんで捕まった時すぐに王印を見せなかったんですか?」

 間髪を入れずにフェルナンドが翡翠の目を眇めた。

「囚われの身で人前に晒して、良からぬ野望を抱く者の手に渡りでもしたらどうする。王印の印影ひとつで万の民の命をも奪えるのだぞ?」

 フェリクスが肩をすくめるも、ジルベルトの憤りはおさまらない。

「とにかくマリアを探せ。そして見つけたらすぐに知らせろ——俺が、迎えに行く……!」

 意気込む主君にフェルナンドは気が気ではない。

 ——これはもはや女性に冷徹無関心とは言えぬな。一旦心を燃やせば歯止めが効かなくなるお方だし。

「……ですから、傷口が広がりますって」