政治・軍事、人生経験に至るまでジルベルトよりもはるかに見聞《けんぶん》のある人物だ。
 いくら皇太子だとはいえ、自分は彼にとってみれば若輩者に違いなく。そんな彼ら年長者への振る舞いはジルベルトとて心得ている。

 自主的に立ち上がり、相手に拝礼される前に軽く頭を下げた。

「これはこれは。皇太子殿下が直々にご足労くださるとは。さぞや後ろめたい事を腹に抱えて来られたのであろろうな」

 皮肉めいた公爵の挨拶が場の緊張を一気に高める。
 シャルロワの王女リュシエンヌとの結婚は、すでに公爵の耳にも届いているに違いなかった。

「お座りになられよ……! あなたは皇太子だ。私ごとき一介の貴族に気を遣うものではない」