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 一等の応接室に通されたジルベルトは促されるまま肘掛け椅子に腰を下ろし、背後に立つ護衛の近衛騎士二人を除いてただ一人、ガルヴァリエ公爵が現れるのを待っていた。

 どういうわけだか、馬車を降りたところを出迎えの数人のメイドが待ち構えていて、マリアひとりをどこかに連れて行ってしまった。
 ジルベルトは家令の案内でこの応接室に通されたわけだが——状況から察するに、マリアはミラルダの指示のもとで別部屋に案内されたのだろう。

 永年に渡り堅固な絆を築くガルヴァリエ公爵家との間柄だ。マリアに危害が加えられる事はなかろうが、一抹の心配は拭いきれない。

「お見えでございます」

 声高な若い侍従の声かけと同時に、開け放たれた扉の向こうに品の良い白髪混じりの男性が姿を現した——いかにもといった風格と威厳に満ちたミラルダの父、ガルヴァリエ公爵である。