「あとは一人で平気ですから、皆さんは少しでも休んでいてください。早朝から忙しくさせてしまったのですから」
この者たちの仕事はマリアの世話をすることだ。
分かってはいても、人を使うことに慣れないせいでつい気遣ってしまう。
「何をおっしゃいます……! リュシエンヌ様はお優しすぎるのでございます。間もなく妃殿下になられるのですから、ご遠慮なさらず堂々とわたくしたちをお使いくださいませ」
あなたは優しすぎる。
ミラルダどころか自分に付いている侍女にまでそう諭されてしまった。
皇太子妃になるのだから、もっと気高く堂々とあらねばならぬと思えば思うほど、自分に務まるのだろうかという不安が首をもたげてくる。
——これからミラルダに会いに行くのでしょう? しっかりするのよ、マリア……!
*
ガルヴァリエ公爵家に向かう馬車に揺られながら、マリアの頭を撫で、ジルベルトは目を細めた。
「後宮での皇妃教育だが、無理をさせてるんじゃないかと思ってな。毎日律儀にこなさずとも、辛ければ休んでいいんだよ」
ミラルダと対峙するという緊張からだろうか。馬車に乗り込んでからもアメジストの瞳を縁取る長い睫毛は伏せがちで、身体も強張っているように見える。
労わるように、膝の上できちんと組まれた指先を手のひらで包んだ。
華奢な両手はジルベルトの片手の下に収まってしまう。

