【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!

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「——リュシエンヌ様っ、足元にお気をつけくださいませ」

 皇城内に次期皇太子妃としての存在を知らしめたマリアは、本来の名である「リュシエンヌ」と呼ばれている。とはいえジルベルトは相変わらず「マリア」と呼ぶのだけれど。
 そろそろ本当の名に戻さねばと思っていても、自分自身もすっかりこの名に馴れ親しんでしまった。

 壮麗で幅の広い皇宮の回廊を歩くマリアを甲斐甲斐しく世話するのは、獅子宮殿付きのメイドではなく、新たに拝命を受けた皇太子妃専属の侍女三名だ。
 正装のドレスの裾を歩きやすいよう介添えをする彼女たちは若く有能で、皆、細々とよく気が利く。

「少し急ぎましょう。皇太子殿下が馬車でお待ちですよ」

 心の内を話せるほどの信頼はまだ無くても、この侍女たちが心からマリアに尽くそうとしているのがよくわかる。
 だがこんなふうに複数の侍女に世話を焼かれるのは初めてで、どう扱って良いものか戸惑ってしまうのも本当だ。