廊下には、興味津々に部屋の中を覗き見ようとする後宮の淑女たちの姿があった。

「まぁ、あなたたち?! そこで何をしているのです、自室にお戻りなさい……!」

 怖い顔をしたアルフォンス大公夫人が無情にも扉を閉めてしまう。その瞬間に廊下で繰り広げられる淑女たちの落胆の吐息が聞こえるようだった。

「大公夫人。マリアにまた辛くあたっていたのでは?」

 なにしろ、氷の彫像のように冷徹な表情を貫いていた皇太子が天使の微笑みを浮かべている。後宮の令嬢たちにしてみれば、ただそれだけでも一見の価値があるというものだ。

「殿下のその発言は聞き飽きましたわ。わたくしはリュシエンヌ王女を虐めるために後宮(ここ)に呼んでいるわけではありません。それに頻繁に様子を見に来られずとも、王女はとうどこにも行きませんよ」

 マリアの皇妃教育が始まってからというもの、毎日のように後宮を訪れては神聖な教育の場を乱す皇太子に呆れながらも、夫人は満足げに柔らかな笑みを浮かべた。