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 それから数日の間に、事態は目まぐるしく動いた。

『皇太子の結婚宣言』
 ——全てはそこから始まった。

 シャルロワの王女リュシエンヌとの、婚約期間を飛ばした突然の『結婚宣言』に、記念式典を終えたばかりの皇城内は再び火の中に放り込まれたような気忙しい熱気を取り戻す。

 皇太子は『明日にでも式を挙げたいくらいだ』と言ったが無論そんな訳にはいかぬのだ。
 性急な結婚を譲らぬ皇太子に周囲の者たちが説得を続け—— 成婚式は数ヶ月後にと説き伏せた。

 そうして決まった成婚式の日まで、準備に追われる使用人たちは勿論のこと、マリアとジルベルト本人たちも怒涛のような多忙さを極めるだろう。


「——マリア、調子はどうだ?」

 後宮の一室の扉が勢いよく開いて、爽やかに肩で風を切りながらジルベルトが揚々と部屋の中に進み入る。