ミラルダはジルベルトを自分から奪えと言った。
 だけど公爵令嬢に勝る後ろ盾も地位もないマリアに、いったい何ができると言うのだろうか。

 それに……たとえ婚約者から愛する人を奪ったところで、亡国の王女リュシエンヌに敵国の皇太子ジルベルトと生きる未来など無いのだから。


 ——そうだ。
 大事なことを、うっかり忘れるところだった。


 「ちょっと待っててください」

 寝台を降りて、寝室とひと続きになった居間に向かう。
 ソファに掛けたガウンを羽織ったあと、鏡台の引き出しを開けて小さな白い箱の中から煌めく『鍵』を取り出した。


 ——これは私が持つべき物じゃない。ちゃんと返さなきゃ……!