ジルベルトの脳裏に、ふと——亡国シャルロワの王女、リュシエンヌが()ぎる。
 リュシエンヌ王女は十四歳の幼きにして、母親が遺したわずかな遺産をも、貧しい農民や病気を患った者たちに分け与えたという。

 憂いを帯びたマリアの美しい眼差しが、二人の友人に支えられて立ち上がるリズロッテ王女を見つめている。

『その女は、生来の下女なんかではありません。虫も殺さぬような仮面の下に、(したた)かな素顔と、その正体を隠しているのです……!』

 ——マリア……君はいったい何者なのだ?
 リズロッテ王女が、それを知ると言うのか————。