——小さい頃からずっと塔の部屋の中に閉じ込められていて、これまで仕事らしいことなんて何もしてこなかったから? いいえ、それだけではないわ。下働きの仕事も《センス》ですもの。情けないけれど、私にはその《センス》が無いのかも……。

 なんて落ち込んでいると、頭の上からまた罵声が降ってきた。

「ほらクロエ! 晩餐が始まる時間だ。あんたはさっさと料理を運んで! マリアは一体いつまでそうしてるつもりさ?! それを片付けたら早く出て行って。そこにいられるとみんなの邪魔なのよ」

「は、はいっ!」
 慌てて立ち上がれば、膝上のエプロンの中に収めていたはずの破片の幾つかがガチャリと落下する。
 どこからともなく「チッ……」と、舌打ちがして。マリアはいよいよ、いたたまれなくなるのだった。

 
 メイド長のアレッタは、マリアの顔を見るなりさも困ったふうにため息をついた。

「ああ、マリア……またあなたですか。この時間は猫の手も借りたいほどに忙しいはずです。なのに厨房を追い出されるとは」

 長年の経験を重ねてきたはずの壮年のメイド長は、手のひらで額を覆い、はぁぁ……と殊更に大きく息を()く。