「……あなた、また重くなったわね? 少し太ったんじゃない? 毎日美味しいご飯をいただいているのだもの、当然ね。かく言う私も、これでも少し太ったのよ?」

 太った、と言うのは少し違うかもしれないと、我ながら可笑しくなる。帝都の街の衣装屋で痩せすぎだと言われてしまったのだ。

「お嬢様。ドレスをお召しになられる前に、しっかりとお食事をお摂りくださいまし。このままでは《《お胸がなさすぎて》》、コルセットがずり落ちてしまいますわ……!」

 ——コルセットがずり落ちるのは困る!!

「……そうなの。これは死活問題でしょう?! ジルベルトにも恥をかかせてしまうわよね」

 ……恥どころの話じゃないにゃ。
 (これは、ジル猫の心の声)。

 トントン——

 このノックの音だけで、ラムダだとわかる。

「ラムダっ、あなたが来るのを待っていたわ……!」

 扉を開けたラムダは、いつものお仕着せではなかった。
 まるでよそ行きのようなワンピースを着ていて、ブルーヴァイオレッドの艶やかな髪を綺麗にまとめ上げ、大きな羽飾りのついたつばの広い帽子まで被っている。

「……マリア」
「あら、もしかして今日は休暇の日ですか? あなたはやはり貴族のご令嬢なのね……とても素敵だわ」

 ラムダはふ、と小さく息を吐くと眉尻を下げた。
 それでも、彼女の美しい面輪は和やかに微笑んでいる。