【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!


 ジルベルトの黒馬は前足を立てていななき、艶々と滑らかなタテガミと尻尾を靡かせて、薄暗くなり始めた帝都の街を雄々しく闊歩し始める。

「俺の『初めて』だとか。フェンリルは大袈裟だな……」

「ドレスまでご用意くださるなんて、想像もしていませんでした。私のような者にここまでしていただいて……なんとお礼を申し上げれば良いのか」

「ん、なにか言った?」

 横座りをしていても、前を向いたままでは言葉が風に流れてしまう。

「ここまでしていただいて、私はなんとお礼、を……っ?!」

 顔を後ろに向けたとたん、マリアの額に何か柔らかいものがふれた——マリアの話を聞こうと腰を屈めたジルベルトの唇が、突発的にふれたのだった。
 ほんの一瞬の出来事だったけれど、マリアの肩はびくん! と跳ね上がる。

「おっと……。危ないから、話はあとで聞こう」

 ——今の……っ、キスされたのかと……。
 私ったら烏滸がましい……恥ずかしい……!

「はっ、はいっっ!」

 ジルベルトは聞こえていないだろうけれど、慌てて前を向いて、恥ずかしさを誤魔化すようにできるだけ大声で答えた。


 立派な黒馬は夜風を切りながら街を駆け抜け、祭りの喧騒からどんどん離れていく。
 皇城に向かうのかと思えば、むしろ遠ざかって行くようだった。

「あの! どこに向かっているのですか!?」