あぶみに足をかけておそるおそる手を伸ばすと、勢いよく掴まれぐい! と引き上げられる。気付いた時にはジルベルトの大きな背中に身体ごと閉じ込められていた。
まるで後ろから抱かれるようで、もう何度も荒稼働しっぱなしのマリアの心臓の寿命は、今日一日で十年は縮まったろう。
「フェンリル、色々と世話になったな。あなたが見立てた意匠だ。仕上がりを楽しみに待ってる」
「こちらこそでございます! 殿下の『初めて』を担当させていただけましたこと、大変光栄でございました。そしてマリアお嬢様! いつでも《《後宮に》》参上いたしますので、どうぞ今後ともフェンリル商会をご贔屓に……!」
——後宮……?
そうですよね。
皇子殿下に連れられた私が下女出身だなんて、誰一人として想像もしないでしょう。
シャルロワの王女だった頃でさえ、あんなに素晴らしいドレスは見たことがなかった。本当なら、ここは私なんかが来られる場所ではないのに。

