【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!


 口元をほころばせたジルベルトの耳に、試着室からフェンリルの大声が漏れ聞こえてくる。

「まぁ……お嬢様。ドレスをお召しになられる前に、しっかりとお食事をお摂りくださいまし。このままでは《《お胸がなさすぎて》》、コルセットがずり落ちてしまいますわ……!」

 ジルベルトは「ぶはッ」……
 飲みかけのお茶を吹き出しかけた。


「皇太子殿下」

 そこへ、先ほどのもてなし係とは違った女性がやってくる。フェンリルとは正反対の、凛とした雰囲気を醸す美しい店員だ。

「馬車も使わず護衛の者も付けずに、おふたりで歩いていらっしゃるなんて。良からぬ噂を立てようとする者たちに見られでもしたら」

「平民の格好だ、問題はあるまい。それより……頼んでおいたものは?」
「勿論、ご用意できておりますよ」

 女性はそう言い、銀のトレイに乗った小さな箱を(うやうや)しく差し出した。