フェンリルには、こう伝えておいた。
『皇太子の隣に立つのだ。間違いのないものを選んでくれ。』
青い薔薇が描かれたティーカップの銀箔の縁取りの中で、琥珀色の液体がゆらめきながら白い湯気を立てている。
半世紀ほど前に作られた骨董品だが、当時その青い薔薇がモチーフとなり、戯曲上演にまでなった名器のなかの名器だ。
美しい食器を眺めながら、フェンリル・ブラウンの玉葱頭が眼裏をよぎる。
ジルベルトはくすりと微笑った。
——フェンリルの物言いは無遠慮で少々変わっているが、目利きの腕と優れた意匠を選び取るセンスは確かだと、亡き母上から聞いている。
夢見る少女のような眼をして、娘が欲しかったと何度も話していた母のことだ。
今も健在であったなら、マリアの存在を知った彼女は嬉々とはしゃいで、マリアをこの商会に連れ出しただろう。
——その前に。マリアの部屋をドレスと装飾品で埋め尽くしていたかも知れないな。

