「なんて語ったところで。君も信じないのだろうが」

 ゴホッ。男の形の良い唇がまた血痰を吐いた。

「私……っ」
 
 血痰をハンカチで拭いながら、マリアは男の碧い目を見据える。

「……信じます。そして皆んなにも訴えてみます。あなたが無実だと……!」

「君が何を訴えても聞く耳を持つ者はいないだろう。明日も明後日も、俺が罪を認めることはない。そして明日も明後日も拷問は続く……俺の呼吸が止まるまで」
「わ……私に何かできることはないですか? 私っ、これでも結構肝がすわっているのです」

 マリアの意気込みに驚いたのか、男がマリアに視線を向けるも。

「下働きの君に何ができる? 誰が耳を貸すのだ?」
「それは、その……」

 持ち上げられた手がゆっくりと伸びて、男の親指がマリアの頬をすうっと撫でる。マリアはびくんと肩を震わせた。

「泥が付いているな。無理をして、俺を抱え上げたからだろう?」
「ぁ……」
「有難う。もう、じゅうぶんだ」
「そんな、まだ諦めないでください!」
「諦めてはいない。だが幾ら叫んでも思案を巡らせても、ここから出るすべを探しあてることが出来ないのだ」

 マリアの膝に頭を預けながら弱々しく憂いを帯びた眼差しは、ただ美しいだけでなく、マリアの庇護欲というか母性本能をくすぐるものだ。

「ごはんを……」
「ン?」