「……はい」
不安そうに見上げた碧い瞳に向かって微笑めば、ジルベルトはようやく安心したように目を閉じる。
ふ、と息を吐くと、スツールに腰掛けるマリアの手を取り、ゆっくりと引き上げた。
「転ぶ場所じゃないだろう?! そそっかしいのだから。あまりヒヤヒヤさせてくれるな……」
ようやく安堵したらしいジルベルトの拳が、マリアの頭をぽん、と軽く叩く。そして柔らかく頭の上に留まったあと、すうっと離れていった。
「…ぁっ」
何か言いたかったけれど声にはならなくて。
出迎えの者に外套を脱いで渡すジルベルトの背中から、しばらく目が離せなかった。
ジルベルトにこれ以上迷惑をかけられないと言う気持ちが、心の奥で燻っている。
素性を問われた事も相まって、気持ちはそぞろで落ち着かない——だから転んでしまったのだ——なんて自分に言い訳をしても仕方がない。
ジルベルトは、マリアを「俺の寵姫」だと言った。
言葉の流れがあまりにも自然だったので、うっかり聞き逃してしまうところだった。
きっとマリアの不安を払拭しようと気遣ってくれたのだろう。ただそれだけの事に違いない……。

