【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!


「……はい」

 不安そうに見上げた碧い瞳に向かって微笑めば、ジルベルトはようやく安心したように目を閉じる。
 ふ、と息を吐くと、スツールに腰掛けるマリアの手を取り、ゆっくりと引き上げた。

「転ぶ場所じゃないだろう?! そそっかしいのだから。あまりヒヤヒヤさせてくれるな……」

 ようやく安堵したらしいジルベルトの拳が、マリアの頭をぽん、と軽く叩く。そして柔らかく頭の上に留まったあと、すうっと離れていった。

「…ぁっ」

 何か言いたかったけれど声にはならなくて。
 出迎えの者に外套を脱いで渡すジルベルトの背中から、しばらく目が離せなかった。

 ジルベルトにこれ以上迷惑をかけられないと言う気持ちが、心の奥で燻っている。
 素性を問われた事も相まって、気持ちはそぞろで落ち着かない——だから転んでしまったのだ——なんて自分に言い訳をしても仕方がない。

 ジルベルトは、マリアを「俺の寵姫」だと言った。

 言葉の流れがあまりにも自然だったので、うっかり聞き逃してしまうところだった。
 きっとマリアの不安を払拭しようと気遣ってくれたのだろう。ただそれだけの事に違いない……。