【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!

 ——文献を読んだ。
 マリアは識字と識学がある。やはり貴族か中流階級の没落令嬢といったところだろうが……。
 被毛のトリミングを施した犬くらい、中流階級以上の家柄ならばどこでも普通に飼われているものだ。なのに一度も見たことが無いというのか。

 パン屋、花屋、チョコレートショップ、雑貨屋、アクセサリーブティック……。
 街道沿いに立ち並ぶ一つ一つの店のショーウインドウを、マリアは食い入るように眺めて歩いた。

 その後ろ姿は。
 白いワンピースの背中を覆うように、たっぷりと長い髪が腰元にまでふわりと降りていて、目には見えない大きな羽を背負うようだ。

 ——まるで天界から舞い降りたばかりの、世間知らずな天使だな。

 ジルベルトは嘆息する。
 マリアは母親を亡くしてからというもの、頼る親戚もなく下働きをしながら各地を転々としていたと聞く。

 だがこの様子を見ていれば、長いあいだ世間から隔離された場所に幽閉されていて、外の世界を初めて見た者のような反応にも思えた。

 ——没落令嬢にしては、矛盾がありすぎる。