ジルベルトが足を運ぶ場所、そこにある物全てにマリアは興味深く目を凝らし、アメジストの瞳を輝かせた。
「ジルベルトっ、あのご婦人が連れている、白い綿毛のようなものは何ですか?!」
「ウン? あれは……《《ただの白い犬》》だ。ああいう形に毛を刈っているだけだろう」
「もしや帝都には、犬のヘアサロンがあるのですか?!」
「それは、あると思うよ」
——と言うか。帝都に限らず、どこにでもあるだろう。
「古来から犬は東洋の神の使いだと言われていて、神殿の守り神である犬たちの長い被毛を切り揃える事を生業とする者たちがいる、と何かの文献で読んだことがあります。私、実際に見たのは初めてで……。あんなに丸く被毛を剃る事ができるなんて。やはり帝都の職人たちは卓越した技術をお持ちなのですね!」
マリアは胸の前で祈るように手を組み、瞳をきらめかせている。
「おっと、危ない!」犬に集中しすぎて荷車にぶつかりそうになり、慌てたジルベルトが引き寄せる始末だ。
「マリア、俺から離れないで」
「は、……はい」
「それに。前を向いて歩こうか?」
「ごめんなさいっ」

