ジルベルト皇太子殿下は、確かにとても素敵だと思う。
 初めて彼を見た時はあの冷徹な碧い眼差しと秀麗な容姿に心を射抜かれてしまったのも確かだ。
 後宮に来てからこの二年、夜会や社交の場で見かけては、あの『冷酷皇太子』とのロマンスに想いを馳せたことは数知れず。

 けれど、それは恋心とは少し違っている。
 自分のことだから、リズロッテにはそれがわかる。

 皇太子を想う時、決まって頭に浮かぶのは悲痛な面持ちでリズロッテに縋る両親の顔。


 ——ロッテ。そなただけが頼りなのだ。

 皇太子との婚約を勝ち取り、祖国への支援を取り付ける——それが、リズロッテに課せられた《《使命》》。

 残された時間をどう動くべきか。
 たとえ血を吐いてでも、皇太子の婚約者の立場を勝ち取るためにはどうすれば良いのか……。


 昼夜を問わず心を悩ませているそんな矢先——。
 リズロッテのみならず、後宮をも揺るがすとんでもない『問題』が立ち上がった。

『女嫌い』で名を馳せるあの冷徹な皇太子が、こともあろうに下女出身の女を寵愛しはじめたと言うのだ。