木の上にいる子どもは泣きそうな顔をして懸命に手を伸ばし、どうやら細い木の幹になっている赤い実を取ろうとしているようだ。
周囲の少年たちといえば、早くしろと捲し立て、よく聞けば時々罵りのような汚い言葉を木の上にいる子供に投げている。
「ラムダ……っ」
「マリア!」
——行きましょう。
二人は顔を見合わせ、頷く。
ホットドックの包み紙をひとまず噴水の袂に置き、子供たちがいる木に向かって走った……数十歩ほど先、すぐそばだ。
「あなたたち、何をしているの!? 無理に細い木に登っては危ないわ……!」
マリアが諭せば、木の下に群がっていた少年たちが「やばい、逃げろ!」と叫んで散って行く。
赤い実に手を伸ばしていた子どもが、木の下の状況に気付いて俯いた瞬間——バランスを崩し、その身体がぐらりと傾いた。
「あっ……!」
一瞬の出来事だった。
五・六歳くらいの子供の肢体が、もんどりうって木の上から落下する。反射的に駆け寄るが、子供を受け止めようにもマリアが立っている場所からは離れすぎていた。
マリアよりも木に近い場所で、子供を見上げるラムダがマリアの視界を掠める。
——落ちるっ
マリアが目を瞑るや否や、ドサッ……大きな厭な音が耳に届いた。
「ラムダ……!?」
目蓋を開ければ——胸の上に男の子を抱きかかえ、地面に横たわるラムダの姿が視界に映った。
ぴくりとも動かぬラムダに息を呑み、言葉を失って、両手で口元を覆うマリア。
ラムダの腕の中の子どもが起き上がり、ゆっくりと周りを見渡したあと、うわぁん……! 大声で泣き出してしまう。
周囲にはいつの間にか、小さな人だかりができていた。

