「しばらく、って! あれから五日も経つと言うのに、ジルベルト様はいつまで焦らされるおつもりかしら?!」

 マリアの寝室の洋燈を順に消して回るラムダは、マリアがたじたじとなってしまうほどに苛立ちを募らせている。
 だがそれでも、ジルベルトのマリアへの想いを知るラムダは期待を捨てていなかった。

 ——全く、ジルベルト殿下は何を考えていらっしゃるの。マリア様に愛を伝えるどころか、遠ざけてしまわれるなんて。
 だけどあの真面目で情に厚い殿下が、意味もなくマリア様を突き放したり、簡単に心変わりをするとは思えない……!

 ジルベルトに直談判することも頭をよぎったが、傷心のマリアへの配慮もあり、ラムダはひとまず二人の様子を見守ることにしたのだ。

「ラムダさん、有難うございます。でもわかっているのです……ジルベルトは、きっともう……」

 なぜ突然に嫌われたのかなんて、悲しい理由を考えるのはもうやめてしまった。思案を巡らせるような深い事情はなく、答えはもっと簡単な気がするのだ。

 ——ジルベルトは帝国の皇子殿下。
 皇城には皇族の婚約者候補を集めた後宮があるとも聞いている。
 麗しいジルベルトを慕う人はきっと大勢いるだろうし、ただ添い寝をするだけではない《《正式な》》『お茶《夜伽》役』だっているはずだわ。

 正式な『お茶《夜伽》役』。
 ジルベルトが見知らぬ女性を抱きしめて眠る様子を想像すれば、また違った心の痛みが襲ってくる。
 その痛みを打ち消すことができるのならば、いっそのことジルベルトとの記憶を全て失ってしまいたいとさえ思える。