あの星空の日から、五日が経った。
 今夜も星が瞬く美しい夜だ。

 寝支度を整えたマリアは寝台に腰掛けて、膝の上の仔猫をあやしている。皇城に来てから一か月以上経つが、この寝台で眠るのはまだ五回目だ。

 眠れぬ夜をどうにかやり過ごし、昼間は獅子宮殿の庭を散歩したり、ガゼボでぼうっと画集を眺めながら辛く長い五日間を過ごした。ふと気付けば眠っていて、夢と現実の境がひどく曖昧な日々だった。
 寝不足で気だるい身体を包んでくれるのは、居酒屋の屋根裏にあった鉄格子の寝台とは比べようもないほど上質でふかふかの寝具。
 だがそれも、たかが居候同然の自分が使うのは相応しくないとマリアは思うのだった。


 五日前の——早朝。
 仔猫に食事をやるために部屋を訪れたラムダは、窓辺にゆらりと幽霊のように佇《たたず》むマリアの姿を見てぎょっと目を見開いた。
 いつもならマリアはジルベルトの寝室で眠っている時間だ。

 ストロベリーブロンドの前髪から覗く目元は隠しようもないほど赤く腫れていて、マリアが泣いた事は明らかだった。
 事の成り行きを聞いたラムダは、

『《《たまたま》》ジルベルト様のご気分がすぐれなかっただけでは? 今夜はきっと、いつも通りのジルベルト様に戻られます!』

 マリアも一度くらいは期待したことを、自信たっぷりに言う。
 その言葉を信じたかったけれど……期待は霧散し、《《いつも通り》》のジルベルトに戻ることは無かった。
 ジルベルトの居室をマリアが再び訪ねる勇気を奮い立たさなくても、その日の昼間にはジルベルトからの通達がマリアの元へと届いた——しばらく一人で眠る、と。