——寵、愛。

 もしかしたら、昨日まではそこにあったのかも知れない。だけど気付かなかった……気付こうともしなかった。
 それはまるで空気のように、マリアを優しく包んでくれていたから。

 ——だけど、今はもう……。

 子爵が言った事はやはり正しかった。諭された通り、いつ失ってもおかしくはないジルベルトの『気まぐれ』だったのだ。

 気まぐれが過ぎ去り、本当に失ってしまうのがこれほどに辛いなんて思ってもいなかった。そして一度失ってしまったものは、もう二度と戻らぬだろう。

「あぁ……」

 込み上げてくる嗚咽を堪えることもなく。
 マリアはひとりきりで泣きながら、窓辺の床の上に崩れ落ちるのだった。