扉を開けたとき、恥じらいから故意に視線を逸らせた。
 だがマリアの来訪前から柘榴(ざくろ)のように紅くなっていた頬を、マリアに見られたかも知れなかった。
 醜態を晒したと思えばますます頬は熱く火照り、自分の意思ではコントロールの効かないこの感情をどう消化すれば良いのかと、ジルベルトは心底戸惑う。

 —— ラムダが言った『恋心』とやらは、一人の男を……俺を、こんなに脆くさせるんだな。

 マリアが部屋に来ると考えただけで。
 愛らしい顔を見ただけで、《《こんなふうに》》なってしまうのだ。

 ましてや、昨日までマリアを抱きしめて眠っていた事など今となれば信じがたく、全てが甘美な夢の中の出来事だったような気さえしてくる。

 ——俺はなんで、今まで《《あれ》》が平気だったんだ?!

 ジルベルトの胸を切なさとともに突き上げる恋心。
 ラムダに諭されるまでは気付かなかったが、確かにマリアに抱いてきた感情そのものだ。
 燃えるように恋した相手を抱きしめても平然としていられたのは、それが無自覚という名のオブラートに包まれていたからだろう。