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 自室の扉に背をもたげたジルベルトは、握りしめた拳を口元に寄せ、眉をしかめて目を閉じた。

「……ッ!」

 発熱した時のように呼吸は荒く、頬が燃えるように火照っているのがわかる。

「マリア、あぁ、俺は……」

 ——追い返してしまった。

 ろくに彼女の顔も見ずに、だ。
 いや……見られなかったと言った方が正しいだろう。

 背中を撫でる痺れは増す一方で、マリアが来訪すると思うだけで目に見えない細い糸で締め付けられるように鳩尾《みぞおち》の辺りが痛むのだ。

「大帝国の皇太子がこんなふうにグダグダになるなど、情けないどころの話じゃないだろう?」

 長い睫毛を伏せたまま項垂(うなだ)れる。
 口元にあてがった拳を開き、そのまま手のひらで顔を覆えば、情けなさで小さな笑いすら込み上げてくる。
 右手のひらで顔を覆ったまま、ふっ、ふっ……と、喉を鳴らした。

「こんな酷い顔を、マリアにはとても見せられん」