「はい……。ただ、思っていたお部屋の感じと、少し違っていたので」
「想像以上にど派手でしょう?」
ラムダは無遠慮にくすくすと微笑う。
「ぇ……」
「彼はこれを《《カッコいい》》って、思っているのですわ、きっと!」
部屋の派手さにも驚いたが、ラムダのあけすけな物言いに気圧されてしまう。それに——
——今、「彼」と?
いくらなんでも少し馴れ馴れし過ぎやしないか。マリアが戸惑っていると、
ガチャリ
よく通る明るい声とともに、執務室の双扉の片方が押し開かれた。
「あー、待たせてごめんね! いやぁ参ったよ……色々と面倒な調査を押しつけられちゃってさ。ただでさえこっちはリュシエンヌ王女の捜索で手一杯だっつーのに。僕はみんなの便利屋じゃないんだよ。ったく、あの老害どもが!」
リュシエンヌ王女の捜索。
思いがけずマリアの耳に飛び込んで来た文言に、冷や水を浴びせられたように心臓がぎゅっと縮こまる。
「さてと、固っ苦しい挨拶は抜きだ。そのままでいいよ? お嬢さんたち」
先の尖った黒皮のロングブーツが、ワインレッドの分厚い絨毯を軽快に踏み進む。
栗色の癖っ毛の後頭部をくしゃくしゃっと指先で掻きながら、若い青年が応接椅子に向かった。
ラムダがすっと椅子を立ち、青年に歩み寄れば、
『わかっていますわね……? ジルベルト殿下の事、マリア様に知られぬよう、言葉にはくれぐれも気をつけて下さいませ』
息を吐くように耳打ちをする。

