「あら。今年も準備が始まったようですわね」

 キラキラ輝く星形のオーナメントを、柱や梁の至る所に飾り付けているメイドたちを見遣りながら、ラムダが答える。

「来月の『星祭り』に向けて、帝都のみならず皇城でも、あのように盛大な飾り付けを行うのです」
 
 マリアを守るように寄り添うラムダは、十三時という時間きっかりにマリアをガゼボまで迎えに来た。
 丁寧に摂った食事で舌と腹を満たし、マリアの《《観察を堪能》》したあと。わずかに睫毛を伏せた柔らかな眼差しで、ジルベルトは言った。

『形だけの茶の用意は要らぬ。その代わりにマリア。今夜は君の《一番大切なもの》を持って、俺の部屋においで。』

 物言いは穏やかだけれど、艶やかで良く通る声。

 ——私の一番大切なもの……。

 ジルベルトはどうしてそんな突拍子も無いことを言うのだろう?
 マリアは首を傾げてしまうし、同時に困り果ててしまう。

 ——大切なものなんて、お母様を失った時に全て消え失せてしまったわ。


 回廊を渡って、壮麗な幅広い階段を登る。
 階段の手すりの欄干にも、腕のいい職人が手がけたと思われる繊細な細工のオーナメントが幾つも輝いていた。

「星祭り、ですか?」
「ええ。帝都で盛大に行われる毎年恒例のお祭りです。あら、マリア様は『星祭り』をご存知ありませんでしたか?」

 ——いけない。
 前にいたウェインだって帝国の属国だもの。そんな盛大なお祭りを知らないだなんて言えば、きっと不信がられるわね。