「皇太子だと知られた後は『お茶役』を解任する。だがマリアへの礼は尽くす。
 皇城内でも他であっても、マリアの望む待遇を与えてやってくれ。俺の気持ちを汲み取ってくれるならば、あとの事は君に任せる」

 マリアを手放すというジルベルトの思いがけない言葉に驚くも、フェルナンドの表情は苦いままだ。

「……よろしいのですか?」

「君の考えは分かっている。愚かな皇太子が下女に(うつつ)を抜かし、シャルロワの王女探しをおろそかにするのではないかと案じているのだろう?」

 そこへノックの音もしないまま、不躾に開いた扉の先から飛び込む乾いた声。

「朝っぱらから何です? 二人して小難しい顔しちゃって。おぉっ、殿下は顔色良いですね。さては良く眠れたな…… ?! 殿下を癒す『お茶役』が見つかったのは喜ばしい事だ!」

 いつものお調子を撒き散らしながら、絶妙なタイミングで入室して来たのはジルベルトの有能な片腕であるフェリクス公爵だ。

 不機嫌な面輪を崩さぬまま、フェルナンドが問う。

「丁度良かった、フェリクス様。王女の顔を知る者の有力な情報を得たという、あれはどうなったのです?」