帰りに、主治医に話を聞いたところ、抗がん剤治療も必要で、髪も抜けるだろう、という話だった。

二人に一人がガンになるという現代だが、母は本気で、ガンになったことを罰だと思い込んでいる様子だった。

病室で、

「若い頃ね、私は艶のある長い黒髪が、自分にとって唯一の自慢だった。周りからも、綺麗な髪だと言われてね」

その“周り”というのは、きっとルツ子さんのことなのだろうと、即座に察した。

私は、大好きな人との初恋を、誰にも邪魔されることなく幼い頃から今までずっと育んできた。

しかし、母たちは、その真逆だ。

誰かを愛することは素晴らしいことなのに、その愛を身内から否定され、勘当までされた。

純くんと、母のことを話し合った結果、純くんもまた、もう両親のことを恨み続けるのはやめたい、生まれてくる子供にも、おじいちゃんおばあちゃんが居て欲しいと言ったので、私はある決心をした。