三条は某大学理工学部に進んだ。そこで出会ったのは湯川(とおる)だった。湯川徹は天才だった。
 講義室。
 だいぶと前に三条は来ていた。そこへサングラスに黒い服を着た痩せた男がやってきた。見たことのない男だった。男は三条の隣の席へ来た。
 「ここ、いいかい」
 「あ、ああ」
 誰だ、こいつ、と三条は思った。
 男は隣に座った。
 三条はノートを開いていた。男が三条のノートを見た。いやなやつだ、と三条は思った。
 「びっしりノートとってんな」
 と、男。
 「あ、ああ」
 と、三条。
 「講義面白いか」
 「あ、ああ」
 「そうかあ」
 と、男。
 男は真正面を向いた。
 「俺も講義出てみようかなあ」
 と、男。
 「あ、ああ」
 「俺、ほこてんでバンドやってて、ろくに大学来てねえんだ」
 と、男。
 やっぱり。