独裁者

 三条シンは某大学理工学部に進んだ。
 三条は漆黒の黒髪ショートヘア、切れ長な目、黒い瞳だった。鼻筋は通っている。フェイスラインはシャープ。キレイな顔をしていた。
 そこで出会ったのは湯川(とおる)だった。湯川徹は天才だった。

 講義室。
 広い。椅子が並んでいた。
 だいぶと前に三条は来ていた。そこへサングラスに黒い服を着た痩せた男がやってきた。見たことのない男だ。男は三条の隣の席へ来た。
 「ここ、いいかい」
 「あ、ああ」
 誰だ、こいつ、と三条は思った。顔をよく見た。見かけない顔だった。男は童顔で、鼻筋が通っていた。眉は細くきりっとしていた。顔のいいやつだ。
 男は隣に座る。
 三条はノートを開いていた。男が三条のノートを見た。いやなやつだ、と三条は思った。
 「びっしりノートとってんな」
 と、男。
 「あ、ああ」
 と、三条はぶっきらぼうにいった。
 「講義面白いか」
 「あ、ああ」
 「そうかあ」
 と、男。
 男は真正面を向いた。
 「俺も講義出てみようかなあ」
 と、男。
 「あ、ああ」
 「俺、ギターやってて、ろくに大学来てねえんだ」
 と、男。
 やっぱり。
 「俺のバンド見に来いよ」
 と、男。
 「あ、ああ」
 と、三条。
 それが湯川との出会いだった。