〇職員室から音楽室に向かう廊下(ある日の放課後)

 杏奈は、部活にいくために音楽室に向かっている。お人好しな杏奈はよく先生達に頼まれごとをする。文化祭前で部活の練習も大切な時期だが、集めたプリントを職員室に持ってきてくれと言われ断れなかった。階段の踊り場に曲がった時だった。前方から来た人とぶつかりこける寸前。

 杏奈「キャア」
 奏天「おっと」

 咄嗟に奏天が、後ろに尻もちをつきそうになった杏奈の腰を抱き受け止める。杏奈は、奏天に抱きしめられているような格好と距離の近さに驚き固まる。

 奏天「大丈夫か?」
 杏奈「へ⁈あっ、す、す、すみません。急いでいて前を見てなかったです」
 奏天「ケガがないならいい」
 杏奈「あ、ありがとうございました。もう大丈夫なので離してもらえませんか」
 奏天「ああ……」
 (もう少し抱きしめていたい……)

 奏天の逞しい腕に助けられただけでなく抱きしめられ、驚きの隠せない杏奈は逃げるように走り去る。

 奏天「ククッ」
 (思わず一人で声に出して笑ってしまう)
 
 颯太「奏天、どうした?」
 (奏天を追いかけてきたら、一人で笑っているではないか。何があったのかが気になる)

 奏天「いや」

 普段、生徒会室以外で無防備に笑うことのない奏天が笑っているのだから、気になる颯太だった。