○文化祭(体育館)

 吹奏楽部のステージが近づき、舞台裏でスタンバイする吹奏楽部の生徒達。

 前の軽音部のステージが終わり、賑やかだった体育館のお客さんも一旦落ち着いたのか、人の出入りする音だけが裏にも伝わっていた。

 そこへ突然きゃあきゃあと聞こえだした。嫌な予感しかしない。

 嫌な予感は当たるもので、杏奈にとっては朝から煩わされた面倒な存在の生徒会長様が体育館にやって来たようだ。幕が下りていて見えないが、生徒会のメンバーの名前を叫ぶ黄色い声が聞こえている。

 美玖「生徒会長って、普段学校にいるのか疑うほど、遭遇したことないのに、昨日に続き今日まで吹奏楽部のところに来るって何かあるのかな?」
 杏奈「さあ?」
 美玖「目当ての子がいるんじゃない?」
 顧問「準備はできたか?」

 スタンバイ中の生徒に顧問が問いかけ、美玖の話も中断した。

 部員が各々首を縦に振っている。それぞれの位置にスタンバイして、あとは幕が開くのを待つだけだ。

 杏奈は、目をつぶり深呼吸する。
 (落ち着いていつも通り)心の中で唱えた。

 幕が上がると体育館は人で溢れている。座席に座れず立ち見の客も大勢いる。なぜか、会長様は最前列に座っているではないか。

 そして、突き刺さる視線。杏奈に向けられた視線は、気のせいとは思えない。

 部員達は指揮者である顧問を見る。

『シーン』と聞こえそうなほど、静まりかえっている。

 顧問の指揮棒(タクト)に視線が集まる。

 そこからは圧巻だった。

 誰もが演奏に聴き入り、胸を躍らす。

 最後の音が止んだ瞬間体育館は、割れんばかりの拍手に包まれる。

 この日のために練習を頑張ってきた部員たちからは、安堵と達成感の笑みが溢れる。

 杏奈の視線の先にいる生徒会長も、杏奈を見つめたまま拍手している。

 体育館での演目は終了した。