二人を見送った後、改めて箱の中を確認する。大粒でルビーのように真っ赤ないちごは整然と並んでいて、どれも見るからに美味しそうだ。

「エードリヒ様のお陰で首の皮一枚で繋がりましたよう。これでなんとか乗り切れませんかね?」
 ラナは箱に顔を近づけて、いちごをためつすがめつしている。先程までの途方に暮れていた表情が一転して晴れやかになっていた。
「うーん、実を言うと大きなエンゲージケーキに対して量はまだ足りないの。どうにかしてカバーできないか、考えているところよ」

 思い悩んでいると、今まで黙っていたネル君が小さく手を挙げた。
「……いちごが足りないなら、ブルーベリーやラズベリーと一緒にジャムにしたものをさらにゼリー状にしてのせるというのはどうですか?」

 私がきょとんとした表情をするとネル君が人差し指を立てる。
「招待状にはいちごの形状が指定されてません。ミックスベリージャムにしてしまえばどうにかできるんじゃないかなって思ったんです」
 私はその言葉を聞いてハッとした。確かに彼の言うとおりだ。


 あの招待状にはどこにもいちごの形状について指定されていなかった。ただ『いちごがたっぷりのエンゲージケーキ』としか書かれていない。
 ネル君のアドバイスに一筋の光明が見えた。

「それだわ! ネル君の方法でやればうまくカバーできるはず」
「お嬢様。私、もう一度商会へいってブルーベリーとラズベリーを仕入れてきますね!」

 ラナはスカートを翻すと急いで商会へと駆けて行く。
 その間に少しでも作業を進めるため、私はこんがりと焼けたスポンジケーキをオーブンから取り出した。