エドワードがルドルフに急いで呼び戻された原因はすぐにハミルトン領にも伝わって来た。

王都にて奇妙な流行り病が始まったというのだ。


長雨も去ったハミルトン領。ジェニットが新聞を見て唇を噛んでいた。


『流行り病が王都で発生、有効な対策は今だナシ』


「発熱して10日で、急に吐血して亡くなるそうです」

「恐ろしい病じゃな。ハミルトン領で発病者は出たのか?」


テラスにて領民の農作業を見守りつつ、足を組んでいるザラにジェニットが顔を上げて首を振った。


「ありがたいことにまだ、ハミルトン領では発病者はゼロです」

「感染症は広がらないに越したことはない。王都だけで済めば良いが」


ザラがゆっくりモミ茶を口に運んで、遠くを眺めた。


「ハァ、ハミルトン領もこれからどうなるんでしょうか……」

「ジェニット心配していても仕方がない。まずはできることをやるのじゃ」

「はい、ザラ様」


ジェニットは立ち上がり、ついに収穫を迎えた8倍量モミ葉を確認しに行った。収穫作業を滞らせるわけにはいかない。この収穫が来年のハミルトン領の未来をつくるのからだ。


「この国に、良い風が吹くように」


テラスにて風を受けながら、ザラはこの風がエドワードに幸運をもたらすように願った。