ロルフがニーナに差し出したのは城を出るときにニーナが押しつけた《真実の愛》だった。婚約は、男性からドレスを受け取り、女性が自らの魔力を込めた香水を返すことによって成立する。

 こんなこと、夢にも思わなかった。初恋の人に告白する。想いを伝えることが長年の夢で、まさか両思いになれて、そのうえ生涯を共にしてくれるのだという。

 ――こんなに、私ばかりが幸せでいいのかな。……信じたい。彼に信じてもらえるような人でありたい。

 ニーナはロルフの持つ《真実の愛》に手を重ねて、涙をこぼしたまま精一杯笑った。

「……ロルフ様……っ、私は……私もあなたを幸せにしたい……っ」

 そう告げて、魔力を注いだ瞬間。手の中の香水は星が落ちたかのように光り輝き、ふたりはその光に飲み込まれた。そしてその光の中でニーナはロルフと離れないようにしっかりと抱き合い、腕の中のロルフがゆっくりと竜へと姿を変えていくのがわかった。

 光の海が静まった頃、ニーナの瞳には白銀の竜が映っていた。それは今まででみたどんなものよりも美しく、凜々しい。研ぎ澄まされた剣の切っ先に虹を映したような鱗の輝きは神そのものにも見えた。

「呪いが、解けたのですね」

 ――君が俺を信じてくれたおかげだ。ありがとう。