「本当に作ってきたの?」

「もちろん」

屋上に続く階段室に置かれたベンチにタオルを広げた香澄くんは私にさあ座れとポンポンと叩く。

「ホント大丈夫だから、あんまり気を使わないでね」

「でも、今日が一番つらい日でしょ? 薬は持ってきてる?」

「だーかーら、そういうこと言わないでよ!」

血に関することは全部筒抜けだ。
今日が一番しんどい二日目なのもバレちゃってるし、本当に嫌んなっちゃう。

「さあ、召し上がれ〜」

香澄くんが差し出してきたお弁当は、昨日の予想通りレバニラ炒めとほうれん草のおひたしが入っていた。
典型的な増血メニュー。
調理方法は変わるけど、毎月必ずお目にかかるレバーとほうれん草。
どっちも苦手な食材だ。
香澄くんがしょっちゅう食べさせようとしてくるから、食べ過ぎて嫌いになった説もある。

「あ! もしかして、吸血鬼の血液って鉄分豊富?」

「え? なに急に。別にそんなことないと思うけど‥‥」

「ごめん、なんでもない。忘れて」

怪訝な顔をされてしまった。
昨日言ってた血を飲んで欲しいって、レバーやほうれん草と同じ意味かと思ったけど違ったらしい。

「ありがとう」

誤魔化すようにお弁当を受け取ると、レバーやほうれん草の他に、ちゃんと私の好きな鶏の唐揚げも入ってた。

香澄くんは料理が趣味だっていうけれど、朝からこんなにきちんと料理するのは大変だと思う。

吸血鬼なのに早起きで、朝日で灰になったりしないかなって思うけど、大丈夫みたい。
むしろ、私の方が夜型だから早起きすると死にそうになっちゃう。

「いつも献血してもらっちゃってるからね。これぐらいのお礼はさせてよ。はい、どうぞ」

そう言いながら差し出されたタンブラーの中身は、温かいハーブティー。
痛みに効くんだって、これも毎月の定番だった。
私よりも全然女子力が高くって、嫌んなっちゃう。

タンブラーの中身をふーふーしながら、横目で香澄くんを見る。

雑誌の表紙を飾っていても違和感がないどころかしっくりきそうなぐらい整った顔。
もちろんクラスや学校でも人気だけど、不思議と浮いた話は聞いたことがなかった。

毎年バレンタインも大賑わいだけど、友チョコばっかりで告白されたとかは知らない。
ただ単に私が知らないだけなのかもしれないけど。

それか、もしかしたら、吸血鬼っていう正体を無意識に感じ取ってみんな近寄り難さを感じているのかな。
血を吸われないように、本能で避けてるみたいな。

じゃないと、香澄くんみたいなイケメンと私みたいに冴えない女子が一緒にいて無事でいる理由が見つからない。