「香澄くんと伊月くんはイトコなんだよね」

「それがどうした」

「イトコなのに、仲悪いのかなぁって」

香澄のヤロウって言ってたし、なんとなく険悪なものを感じた。

「あんなヤツと仲良くする気なんかねぇよ。弱っちくて女に守ってもらってるようなやつ」

私が買ってあげたコーラを飲みながら眉間にシワを寄せている。

「久しぶりに会えても、楓姐さんアイツのことばっか構ってるし‥‥」

ははあ、なるほど。
さては初恋の人、楓さんだったな。

肺炎になった件もそうだし、小さい香澄くんは体が弱くてすぐに風邪を引いたりしてた。
年が離れ気味なのもあって楓さんは香澄くんを凄く可愛がってるし、昔の楓さんは小さい香澄くんに対してちょっと過保護ぎみだった。

さすがにもう人妻子持ちになった楓さんに横恋慕はしてないかもしれないけど、香澄くんへの対抗意識だけは残ったんだろうな。

小さい頃からこんな感じで香澄くんに噛みついてたのかなって想像すると、キャンキャン吠える子犬が思い浮かんだ。

「オマエだって、香澄に血をやって甘やかしてんだろ」

「甘やかしてなんかないけど‥‥」

むしろ、私が香澄くんに甘やかされている。

「チャラチャラ女の血なんざ吸いやがって」

「伊月くんは違うの?」

イトコなんだから伊月くんも吸血鬼で、十代だから人間の血が必要なはずだ。
吸血鬼が吸うと言えば、若い女の血ってイメージなんだけどな。

「女の血なんざ吸えるか。オレは男らしくたくましい漢の血が吸いたい。そしたら、オレも‥‥」

男性の血は、プロテイン感覚なんだろうか。

「なのに、アイツぐらいしか吸えるヤツいないんだよなぁ。ナヨナヨして女みてえなヤツなのに、彼女がいるのが納得いかねー」

ぶつくさ言いながら、眉間のシワが深くなっていく。
伊月くんの吸血事情は思うようにいってないみたい。

「‥‥オマエ、よく見りゃ悪くねぇ顔してんな」

空き缶を投げ捨てた伊月くんの口元が歪んだ笑みを浮かべて、真っ直ぐに私を見てくる。

そうだった。
楓さんは私と一緒のときに会わないように言ってたんだった。
伊月くんと会うと危ないのは、香澄くんじゃなくて私の方なんだ。