直月くんは、キケンな恋に沼りたい




何だ……今の。


亜里沙の口から、絶望に近い、泣き声のようなうめき声がもれた気がしたが。




慌てて亜里沙に視線を飛ばす。


頬は乾いている。

涙は流れていない。


そのことに、ホッと胸をなでおろす。


そうだよな。

亜里沙は泣くような女じゃない。



笹に手を伸ばした亜里沙。

自分で書いた短冊を、勢いよく引きちぎった。

手の平で短冊を握りしめ、辛そうに唇をかみしめている。



「……アハハハ。私って、どれだけ鈍い女なんだろうね」


「ありさ?」


「可愛い織姫ちゃんから、彦星を奪うところだったよ。恋を邪魔する悪役になってたら、切腹もんだね。アハハハハ……」



必死で笑い声を漏らす亜里沙が、痛々しく見えてしまう。



亜里沙はついさっき、何を瞳に映したんだ?

笹を見上げていたと思うんだが。