春は嫌いだ。
 桜の花なんかちっとも綺麗じゃない。
 勝手に咲いたくせに、散る時には持て囃されて。
 後始末はすべて他人任せ。
 大嫌いだ。

「俺と来る気はあるか?」

 ちゃぶ台に突っ伏していた私は、気怠さを覚えながら頭を持ち上げた。
 隣の和室では今まさに私の引き取り先が決められようとしている。

『困っている人には親切にね』
『苦しい時は助け合わないと』

 両親はいつも慈愛の精神を口にしていた。
 思いやりに満ち溢れた二人は間違いなく善良な人であったが、どうやら親戚達はその限りではない。

 反対を押し切り駆け落ち同然で結婚した両親に親戚一同は冷たかった。冷淡な視線は二人の間に生まれた私にも向けられることになる。

 話し合いは混迷を極め、数分前からは口汚い罵り合いが始まった。
 聞くに耐えない言い争いにうんざりし、私は何もかもを拒絶するようにちゃぶ台に突っ伏していたのだった。
 そんな私の目の前に、彼は突然現れた。