【完結】鍵をかけた君との恋

「ちょっと休憩」

 ゼリーがたっぷり入った袋を地面に置いて、陸は土手の段差に腰掛けた。私も隣に座り、太陽が残した()の色が、段々と薄れていくさまを眺める。

「勇太と殴り合った理由、アイツから聞いたっしょ?」

 陸は自嘲気味に言った。

「聞いてないよ」
「まじかよ、聞いてないの?」

 頭をがしがし掻く陸は、ばつが悪そうだ。

「乃亜と寝たこと、バレた……」
「え」
「墓穴掘ったわ、ごめん」

 その時抱いた陸に対する怒りは手に負えないものではなく、むしろスーッとすぐに、姿を消した。

「いいよ、しょうがない」

 あっけらかんとした私の態度に、陸は亀の如く首を出す。

「怒んねえの?」
「それで勇太君が私に幻滅してくれるなら、お互いすっぱり別れられていいかな。ほら、あっちだって未練がない方がいいでしょ」
「そういうもん?」
「そういうもん」

 辺りが暗くなる。頬を撫でる風も冷んやりとしてきた。

「そろそろ行こっか」

 そう言って腰を上げた私に、陸がこんな質問を投げてきた。

「乃亜と勇太が別れたら、俺、お前に告白していい?もちろん、ゲームじゃないやつ」

 夜に近い空の下、曇りのない陸の瞳から彼の決心が伝わった。イエスとも言えず、ノーとも言えず、私は曖昧に俯くだけ。

 
 たくさんのゼリーを冷蔵庫に入れると、空っぽだった庫内が鮮やかに彩られた。

「ずっとこのままでいようよ、陸……」

 そう呟いて、ひとつを取って。静かな部屋で、ひとりで食べた。